Short×Short

WEB-CLAPお礼画面掲載作品

大好き!


 どんな人ごみの中からだって、先輩を見つける自信があたしにはある!
「せーんーぱーいー!」
 教室の窓から下校する先輩の姿を見つけてあたしは即行で鞄を持って廊下を走り、階段を2段飛びで降り、神業に匹敵するくらいの早さで靴を履き替え、目指す彼の背中を目掛けて駆け寄った。
「先輩〜! 一緒にかえっ」
 言い終える間もなく先輩の鞄があたしの頬に殴りかかってきた。
 ぐはっ。イタイケなオトメにこれはひどすぎます、先輩!
「な、なにするんですかぁ!」
 涙目になりながら赤くなっているだろう右頬をさすってあたしは先輩を睨みつける。いくら大好きな先輩でもこんなこと許しませんから!
 だけど当の先輩は涼しげな表情であたしを見下ろし、あろうことかフッと鼻で笑った。
「バカじゃねぇの」
 冷ややかな眼差しに大抵の女の子は背筋が凍りつくだろう。けどっ、あたしの先輩ラブ!の気持ちはその程度じゃ醒めないのだっ。っていうかむしろ、年季の入りようが違うから今更なんだもんね。
「バカじゃないです。こう見えても成績は学年で上位なんですからねっ、きっと先輩よりも頭は良いです!」
 フン、と胸を張って言い返すと、先輩は予想通り顔を歪ませて心底嫌そうな表情を浮かべた。先輩は金色の短髪にピアスが両耳合わせて5つ、眉毛もしっかり細く整えていて、制服なんかもちろん着崩しが基本、の見た目そのままな不良生徒。反してあたしはがり勉タイプでもギャルタイプでもない普通がモットー。先生受けだって成績だってあたしのが良いのは一目瞭然で、そういう比べ方を先輩が嫌うのも充分承知していた。
「だから、なに? いい加減ウザイんだけど」
「だったらあたしの愛をうけ」
 ガチンッ。  再び言い終える前に先輩の拳があたしの脳天を直撃した。
 痛い! いくら先輩だからって手加減くらいしてくれたっていいと思います!
「俺はお前を相手にするほど女に困ってない」
 ううっ……、そりゃあ先輩はかっこいいですけど。だからあたしは一目惚れなんぞをして、こうして果敢にアプローチしているわけなんだけど。さすがにあたしだって傷つく。どうしたら先輩はあたしに目を向けてくれるんだろう。
「じゃあどうしたら良いんですかぁ」
 頭を摩りながら上目遣いで聞いてみる。あまりにさっきの攻撃が効きすぎて涙が出そうになる。先輩にか弱い女の子を労わる気持ちってないのだろうか。
「どうもするな」
 先輩はそれだけを言うと踵を返してさっさと歩き出す。あたしは慌ててその後を追う。
「待ってくださいよー! 途中まで一緒なん」
 三度鞄があたし目掛けて襲ってきた。後ろにも目があるのかっていうくらい、先輩の鞄裁きは百発百中だ。うう、かっこよすぎ……。
 ハッ、いかんいかん。あたしは決してマゾなんかじゃないんだから!
 これも先輩の愛!ゆえなんです。絶対諦めないんだから。
「先輩、覚悟!」
「来るなっ!」
 痛い!
 でも、こんな痛み、先輩の愛を得るには屁でもないですよ! フフン!
「大好きです、先輩!」
 バシッ。


 でも少しくらいは、優しくしてほしいかな……。

+++ F I N. +++